左手のピアニスト


舘野泉さんは2001年に演奏生活40周年記念リサイタルを全国で行った翌年2002年1月脳溢血で倒れ右半身不随となりました。
それまでは世界各国で3000回以上の演奏活動をおこなっていて、発売されたCDは100枚にも及ぶという、たいへん有名なピアニストです。
フィンランドヘルシンキ在住、今年70歳になられます。
NHKで演奏活動再開の様子を密着取材したドキュメンタリーを見て、この方に興味をもちましたが、実は友人の息子さん(現在高校2年生)が、ヴァイオリニストとしてたいへん才能に恵まれていて、舘野さんが病に倒れる前のフィンランドの演奏旅行に同行していたので、お名前だけは聞いたことがある、その程度の認識でした。
(保護者として両親も同行し、フィンランドの白夜には慣れないけれど、とてもきれいなおとぎ話みたいなところよ、と聞いていて映画「かもめ食堂」を観たときも、ああ、この景色が彼女(友人)が言っていたものなのね、って、想いをめぐらしたものです。)




2004年から左手だけでの演奏活動を再開し、幸運にも今日、その音色を聴くことが出来ました。
演奏された楽曲は舘野氏のためにたくさんの素晴らしいご友人が書かれた作品が主ですが、
それ以外にも『バッハ(ブラームス編曲):シャコンヌニ短調BWV1004』 、『スクリャービン:左手のための2つの小品Op.9 』 、など左手のための曲が以前から存在していたことにもすこし驚きました。
ほかにラヴェルの『左手のためのピアノ協奏曲』なども有名だそうです。



わたしは普段からあまりクラシック音楽を聴かないし、ピアノリサイタルというものにも初めて足を運んだような状態です。(旦那さんはまぁ、休日の朝食どきにはクラシックを流したい人です。。。)
いざ、演奏がはじまると・・・あまりの気持ち良さに次第にうっとりと夢の中へとお散歩に出かけてしまいました。。。旦那に肘で小突かれて、我に返る、を何度か繰り返しました。
左手だけでの演奏、そこにはなにがあるのだろう、そんなぼんやりとした興味は、舘野氏の大きく繊細な心そのものの演奏を聴いているうちにどこかへ行ってしまいました。







アンコール。
一回目はチェコの作曲家が大戦中、強制収容所で書いたという短い作品。
優しく切ない曲でした。
そして二回目のアンコールでは、吉松 隆さんの7つの曲からなる作品のうちのひとつ、
(詳しいことがわからないけど)モーツァルティーノ、だったかなぁ?
小さなモーツァルトという意味の小品を披露してくださったのですが、
「これは左手のための作品ですが、今日は、特別に、右手も少しだけ、つかいます。」
とのお言葉に会場からは大きな拍手が起こりました。


そうしてね、両手で弾かれたこの曲があまりにも優しくてね、それでキラキラしていて。
ここまでの道のりをいっぱい語ってくれた演奏でした。



涙が止まりませんでした。